凍った世界に時の流れを

佐々木啓

私たちは言葉を使うことに余りにも無頓着すぎるのではあるまいか。

 

だから平気で

 

私には才能がない

 

私には能力がない

 

私には素質がない

 

などと口にしてしまうのだろう。

 

もちろん人間は自力では飛べないし、100mを一秒で走ることはできない。

だがそれら現象と、自分に対して否定的ステイトメントを投げかけることはまた別の話だ。

 

そもそも、「才能」「能力」「素質」は“ある”とか“ない”とか言える性質のものなのだろうか?

 

私たちがこれらを“ある”/“ない”と表現するとき、「才能」「能力」「素質」をあたかも一つの物体のようにイメージしてはいないか。そして、それらを自分が持っているか持っていないか、という二つに一つで考えてはいないか。

 

実際、「才能」や「能力」などは物体、一個物ではない。それがある/なしで表現したとたんにオールオアナッシングの世界に突入する。

 

これは言語の働きによる錯覚である。

私たちの活動、動きのあるプロセスを言語表現が凍らせてしまうために起きる。

例えるならビデオをスナップ写真にしてしまうようなものだ。

 

私は歩く。

 

 

私は歩行する。

 

この二つの文章から受け取る印象の違いを感じていただきたい。

 

私は楽しむ。

 

 

私は楽しみを感じる。

 

とか。

 

「才能」も「能力」も「素質」も、私たちの活動、プロセスを形容したものである。すべて私たちが何かを表現した結果であって、「才能」「能力」「素質」が単体で存在するわけではない。

 

日本語にするとあまり違いが感じられないかもしれないが、

○○をする才能

○○をする能力

○○をする素質

というのがもっと本質に近い表現だろう。

 

自分にはゴールにたどり着く「能力」がない、という信念を持っているクライエントもいる。コーチのやれることはいくらでもあるが、このような言葉の使い方をつんつんしてクライエントの自己規定をゆすってあげることもできる。

 

「ゼロ! 時は動き出す」

 

クライエントの動きを止めた世界、凍った世界に時の流れを回復させるのもコーチのお仕事である。

 

今回の私の結論。

 

【私たちは知らず知らず、世界の動きや時間を止めて、今の状況を永遠不変のものと勘違いすることがある】

佐々木 啓

公認心理師/ICC認定国際コーチ/同認定国際チームコーチ/同認定国際ライフコーチ   ■略歴:2011年 ICNLP(International Community of NLP)認定NLPトレーナー資格取得(英国) | 2014年 「心理療法を応用した子供への関わり方」をテーマに個人的に講演を始める | 2015年 ICC(International Coaching Community)認定国際コーチ資格取得(英国) | 2016年 北区堀船カンフークラブ設立 | 2019年 公認心理師資格取得 | 2023年 柳生心眼流兵術奥伝印可 師匠より“玄盛”を受命される